2017年4月7日金曜日

小説「恐怖を消すメモ」異川深三10/10

 俺は今迷っている。迷いにはどうどもいい迷いもあれば、重要な迷いもある。どうでもいい迷いというのは結果がどうでもいい時の迷いだ。どの結果が来てもオーケーというときに迷っているのは、特定の結果を期待しているのではなく、何を選べばどの結果になるのかという関係について余裕で科学しているということだ。重要な迷いというのは、一度決めるとしばらく変更できない時の迷いだ。変更後のシミュレーションを頭のなかでやっている。変更には、性別の変更とか職業の変更などがある。性別の変更というのは、妄想の視点を変更することだ。どっちの視点が気持ちいいか、どっちの視点が気持ち悪いかで決める。俺はどっちの視点が気持ちいいかで決めた。職業の変更というのは消耗する部品を変更することだ。職業というのは特定の部品を消耗していく。自分を構成する部品の中で強度が高いものがわかる時がある。俺は高校生ぐらいまでに殆どの部品が消耗してしまった。部品には、交換できない部品と交換できる部品とがある。交換できない部品は、本体を破壊しないと外せない部品だ。本体ごと買い換えなければならない。本体が山のように捨てられているものは、壊さないと交換できない部品が多いものだ。交換できる部品というのは、割と外側についている部品だ。俺は外側の部品が交換できると知って全部交換した。他人と接続するのはだいたい外側の部品同士だ。
 俺は逃し方で悩むことがある。逃し方には、ミスをする逃し方と同情する逃し方とがある。ミスをする逃し方というのは、鍵をかけ忘れる逃し方だ。鍵をかけずに俺が消えれば、勝手に逃げていくという逃し方だ。同情する逃し方というのは、逃げたい人の理由に納得する逃し方だ。逃げたい理由にあまりにも深く納得してしまうと、俺も一緒に逃げてしまう。理由には専門的な理由とか、常識的な理由とかがある。専門的理由というのは、大学で勉強した人でないと知らない理由だ。大学には時々秘密の知識が隠されている。そんなレアな知識で説明されても同情できないので放置するしか無い。常識的な理由というのは、ニュースやドラマを見ていると何度も出てくる理由だ。いつも同じ理由で同じことをしているので、そうなのかなと思っている内に自分もやってしまう。常識的な理由で理解し合っているグループは一緒に逃げる。ニュースには世界のニュースとか、地域のニュースなんかがある。世界のニュースというのは、遠くて行けない場所についてのニュースだ。 遠くてとてもそんなところにはいけないという場所でのニュースを見ていると、そんな遠くからこちらへ逃げてくる人もいる。地域のニュースというのは、つまらなくて行く気がしない近所のニュースだ。俺はいつもこんなつまらないところに住んでいるんだなと思っているが、別にここから逃げたいとも思わない。そんなニュースが流れている。
 俺は最近良く諦める。諦めるのが楽しい。ちょっと望んでから諦める。諦めには、悲しい諦めとか、すがすがしい諦めとかがある。悲しい諦めというのは、割と簡単で基本的なことについての諦めだ。誰でもできそうな簡単で基本的なことができないと気付くのは、自分の欠陥を見つけることなのでちょっと悲しい。すがすがしい諦めというのは、高望みして辛かったことについての諦めだ。高望みしているときは自分を特別だと思っているが、自分が特別でなく普通だという結論にたどり着くと、たくさんの普通の人たちに迎え入れられた気分ですがすがしい。高望みには、少女がする高望みとか少年がする高望みとかがある。少女がする高望みとは、少女漫画を読みすぎた結果の高望みだ。少年がする高望みとは、少年漫画を読みすぎた結果の高望みだ。皆んな漫画を読みながら、現実が漫画になるように望んで諦めない。少年漫画には、勝利が止まらない少年漫画とか、ギャグが止まらない少年漫画とかがある。勝利が止まらない少年漫画は、負けそうになると必ず新しい能力がゲットできる少年漫画だ。俺は新しい能力を諦めて泣くとすがすがしい気分になる。ギャグが止まらない少年漫画は、なんでも笑いに持っていけばそのうち学校が終わってくれる少年漫画だ。いくらギャグを飛ばして笑っても問題集が一問も進んでいないのが悲しい。新しい能力も諦めて、ギャグを言うのもやめて、自分の顔が素の顔に戻っているのを俺は時々鏡で確かめる。
 俺は広めに場所を確保している。広さには、一日で見て回れない広さや、家族で住める広さなどがある。一日で見て回れない広さというのは、テーマパークの広さだ。何度も来て見て回らなければ全てを把握できないぐらいの広さにしておく。家族で住める広さというのは、誰も不機嫌にならない広さだ。一人になったり家族と話したりを自由に調節できる。不機嫌には、黙り込む不機嫌とか暴れだす不機嫌とかがある。黙り込む不機嫌は、状況悪化の原因を探す不機嫌だ。どうしてこうなったのかをずっと考え込んでいる。暴れだす不機嫌とは疲れなければ眠れない不機嫌だ。布団に入ってもすぐに飛び起きてしまう。疲れ無さには、アイディアが止まらに疲れ無さとか、ゲームがやめられない疲れ無さとかがある。アイディが止まらない疲れ無さとはメモが山積みになる疲れ無さだ。俺はメモを整理する段階で疲れ始める。ゲームがやめられない疲れ無さというのは、体が目と脳を置くだけの台になっている疲れ無さだ。台の上に目と脳が置かれたものが、俺の自画像だ。

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